鼓動は早鐘のように速く、息苦しく、思わず立ち止まって呼吸を整えなくてはならな
かった。

 ――マリア。

 その名前は、遠い過去の名前であるはずだった。しかし彼女は、あの頃と変わらない
顔――あの頃と変わらない口調で、こともなげに私を過去へと引きずり込んだ。
 穏やかだった、あの日。

「……なぜ、いまになって?」

 追憶に引きずられそうになるのを必死で抑え、現在に意識を集中させるため、今この
瞬間の疑問を、言葉として口にした。しかし、続く思いは、すでに過去のものか、現在
のものかはわからなかった。

 ――なぜ、彼女は戻ってきたんだろう?
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